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太陽の日

 北極圏に住んでいると言うと、「寒いところで大変ですね」とよく言われます。昔、ノルウェー本土からさらに10°ほど北にある、スバールバル諸島のロングイヤービューエンという町に住んでいたことがありました。そこはバナナで釘が打てるほどの極寒の地で、ある冬の日、今日はなんか暖かいなと思って温度計を見たら10℃(氷点下)だったことを覚えています。人間は気温には案外簡単に適応できるもののようで、寒さが辛いと感じることはありません。

 極域が中・低緯度地域と圧倒的に異なるのは温度ではなく ”光” です。極域は、「毎日、朝には日が昇り、夜には日が沈む」というのが当たり前でない世界で、冬の夜空にオーロラが見られる代わりに、夏の夜空には星を見ることができないところです。季節の移り変わりは、暑さ寒さよりもむしろ日の長さで感じられ、その光が戻ってくる日はまさに大きな節目でもあります。約2ヶ月の間、電灯の明かりのみでの生活をしていると、太陽の光が驚くほど明るく感じられます。この地に生まれ育った人でも、初日の出の神々しさにはいつも大きな感動を覚えるそうです。(写真 : トロムソ島の湖畔から海を挟んだ先の鯨島の山々。頂上近くにはすでに太陽が当たっているのがわかります)。 

 太陽が戻って来る日は ”太陽の日 (=soldagen)”と呼ばれ、太陽に見立てた黄色いクリームを挟んだ菓子パンとオレンジを食べてお祝いをします。トロムソでは太陽は1月半ばに水平線の上に出るのですが、山の陰から太陽が顔を出す1月21日が太陽の日とされ、毎年この日には、トロムソ島の南端の海岸で ”太陽フェス” なるものが開催されます。しかし、今年はコロナのため大々的なフェスはなく、各人各々の場所で静かに初日の出を迎えることになりそうです。ちなみに石ノ谷では太陽が水平線の上に出るのはトロムソより数日早いのですが、周囲の山が急峻なため太陽の日は2月5日、フィヨルドの一番奥にあるカワウソ郷カワウソ村の太陽の日は2月12日です。